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コインランドリー

ありふれたような、日常の流れです。

お別れ

自宅の猫が行方不明になった。

お別れの時なのだったのかもしれないね。最後までずっと身勝手なやつだった。挨拶もなしに居なくなっちゃうなんて、本当にあいつらしいよ。

 

お母さんは猫が恋しいと猫のグッズをひたすら集めるようになった。弟は一年後に猫がふらっと帰って来たニュースを見て、勇気付けられたと、微かな望みで帰る場所を用意している。

彼は私たちの立派な家族として、そこに居て当たり前の存在としてちゃんと生きていたんだろう。きっと周りの主人に比べて私たちは彼を可愛がってあげることはできなかったと思う。時にはきつく当たることも、存在を無下にすることも、「動物だから」という枠組みを超えて、残酷な付き合い方をたくさんしてきた。それでも言葉を持たない彼はただ其処に存在していたよ。

言葉にしないと、何かを残しておかないと、気持ちが押し潰されそうだ。

でも、きっと本当に彼の死に目に会ってしまったら立ち直れないと思う。わたしはまだ彼とのお別れに涙を流していない。死にゆくものに、涙を流すことがなくなったのはいつからだろうか。

生きているものとのお別れには、声が枯れるほどに泣くのに、死にゆくものとのお別れには涙が出てこない。もう二度と会うことがで出来ない事実というものは、どうしても取り戻せないという事実というものは、考え方を変えてみると期待しなくて済むことなのかもしれないと考えたりする。

生きているものへのお別れは、物理的というよりも精神的な部分が八割型を占めている。だから、まだ其処に存在していることを知っているだけで、期待してしまう。その気持ちが悲しみを増幅させて、涙が溢れてくる。

でも死にゆくものとのお別れはもう二度と、本当に望んでも会えない。もう二度と本当に会えなくなってしまう。期待もなにも全ての望みや感情が絶たれるものこそが、物事への死に対する解釈なのではないかとふと思うのだった。

 

 

お別れは悲しいけど、忘れないように何度も思い出してあげることが大切だって、今生きてる私の大切な生き物たちが言ってた。なによりも、忘れないことが、思い出すことが大切なんだって。

お父さんが昔言ってたみたいに、悲しみはいつか終わるんだよって。お婆ちゃんが死んで泣いた時に言ってた。だからこの悲しみもいつか終わる。けど、それでもずっと彼のことは忘れずに居て、自分の心の中で生き続けるなんて言ったら嘘かもしれないけど。たまにふらっと思い出して「久しぶりじゃん」って笑えたらいいな。

 

もうしばら彼に会っていないせいか、最後に会った日のことなんて忘れてしまった。それでも、若かった頃のまだ幼い彼の記憶とか。「ごはんだよ〜!」っていうお母さんが私を呼ぶ声に、自分だと勘違いして部屋かた猛スピードで飛び出して言った姿だったり、大喧嘩してお気に入りのデニムを血まみれにされたり。そんな些細な記憶ばかり蘇ってくるんだよ。

それってちゃんとお互いの時間を生きてきた事実なんだ。きっとわたしが歳をとって、昔話になったら、「昔すごく可愛くない猫を飼っててね」なんて、遠い日の微かな思い出を語る時がくるのかな。そんなこともあったね、って記憶の一部として染み込んで行くのかな?

 

今は闇雲に悲しくて、悲しくて、それでも不思議と涙は流れないんだ。そこに期待は存在しないから。それは諦めじゃなくて、そうじゃない。なんていうか受け入れるガラクタの器を辛うじて用意しているような気持ち。心が壊れないように。

 

でも、こんなこと言うのはダサいけど。もっと彼の写真をたくさん撮っておけばよかった。ブサイクだし、写真写り悪いし、インスタ映えしないし、とかしょうもないことを考えてあまり写真を撮らなかったね。そこらへんのなんでもない野良猫の写真は撮ってたのに、君の写真は数枚しか残ってないよ。どれもみんな変な顔してる。

最後まで可愛くなかった。臭かったし、汚かったし、いつも喧嘩してきてボロボロだった。いびきはうるさいし、保険のおばさんに威嚇するしさ。朝の忙しい時間に限って甘えた声を出して膝の上に乗ってきた。あと、ソファに寝そべったお父さんの足元で丸まって寝るのが好きだったね。安いカリカリが大好きだったな。お母さんが職場の人からもらってきた高級なカリカリは食べなかったね。貧乏舌なところがうちの猫らしいよ。冬なんかどうしても外に出たくて、雪の中玄関まで駆け寄ってから、ドアを開けたら寒さのあまり固まって渋い顔して家の中に戻って来たり。全部覚えてるはずなのに、最後にあいつに会った時の記憶だけがすっぽり抜けてるなんて寂しいよ。

 

もっと、抱きしめればよかった。もっと臭いをたくさん嗅いで、撫でて、遊んで、一緒に寝たりしたかった。もっと一緒に居たかった。

だから嫌なんだよ。

 

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生き物はいつか死ぬから、私より先に死ぬ生き物は嫌いだ。大っ嫌いだ。大っ嫌いだけど、でも楽しかったよ。ありがとう。またね。