コインランドリー

ありふれたような、日常の流れです。

キャバクラ体験記

火曜日の夜七時。

今日は平日出勤。平日なのでお客さんは週末にくらべて酷く少なく、女の子の人数もだいぶ減っている。七時になると同時に店内の照明は暗くなりクラブミュージックが響き渡る。

顔に沢山穴の開けた華奢なボーイが店内の音楽を徐々に上げていく。回転開始すぐでの客はまだこないので、女の子はドレスに着替えて場内のソファでタバコを吸いながら呼ばれるのを待つ。

 

更衣室の横にある沢山のポケットがぶら下がったそれには女の子の携帯が管理されている。煙草を吸う女の子もいれば、タバコをふかしながらほかの女の子同士で談笑を交わす女の子も多々。

ある一人の先輩キャバクラ譲と初めて言葉を交わした「キャバクラにいなさそうだね」と営業スマイルで私を眺める。彼女は此処で働き始めて五か月だそうだが、それまでにも4~6年のキャバ嬢歴があるそうで。明るく元気な印象の裏腹に何か裏を感じる彼女は気さくに新人の私と言葉を交わしてくれる。

 

八時頃になりお客さんが一人現れる。少し恰幅のいいおじさんだ。そして八時を少し過ぎたその時。インターネットで事前に声をかけていた男が客として私を本指名してくれた。

一時間5000円。指名料2000円。

計7000円を支払ってその男は私のもとへと訪れる。基本的なシステムとしては、客側はウーロン杯、もしくは水割りが飲み放題で、女の子は水かお茶を飲むシステム。上手くいけばボトルを入れてもらえる。

彼は私への貢献ということで3000円の一番安いボトルを二本入れてもらった。ボトルや本指名、延長などそれぞれの単語が乱立するがポイントとして加算され、ある一定数のポイントまで満たすと時給が上がるシステムになっている。

二人でボトルを空けて拙い話をした。事前の約束ということもあり、言葉が続かない面でもあまり気を使わなくて済み、煽るようにシャンパンを飲みながらのんびりとした時間をすごいた。話す事といえばご飯屋さんやフェティシズムの話。彼が緊張の上なのか事前のある程度のトークテーマを三つ上げていた。

結果一時間延長の、二時間のんびり飲んで、解散。お会計はすべて前払いなので時間がくればすぐに退散できるシステムになっている。

 

 

次のお客さんが入るまでにお店ががら空きになってしまうことがある。その度に女の子たちは再び談笑を交わしたり、煙草を吸ったりお化粧直しをする。

初の平日出勤での印象は女の子の数が非常に少ないということに加えて、お客さんも週末に比べると一割程度の人数しか訪れない。その間の待期期間に時給が発生するのはただ働きということになるので少し気は楽になりつつある。

 

しばらくするとある程度出来上がった状態で入店してきた仕事帰りの男性二人が入店してきて席に着く。彼らの顔はほのかに赤らみ、お決まりの年齢当てゲームが始まる。わたしはこの、年齢当てゲームがとても嫌いだ。特に男性は若く見られることを嫌負がる人や、その逆もいるのでさじ加減が難しい。

結果的に歳を多く見積もってしまい、いじられキャラへと転向する。「しほ(私の源氏名)空気読めよ~~」と酔ったお客さんにどつかれて、どうしようもない顔になってしまうばかりだ。

どうしたってどのお客さんについても私はいじられキャラとして扱われてしまうらしく、「ムチムチ、メンヘラ」など様々なな客層があまり良いイメージのワードを発することはない。

ほとんどのお客さんの傾向としては、飲んだ帰りに出来上がった状態で女の子と楽しく話して帰るというパターンが多いようだ。中には本指名の女の子とラストまで盛り上がり、楽しみ、帰っていく所謂「ふと客」なるものもいて、ボトルなどを何本も開けて帰っていく。

それを横目に私もいつか、そんな風になれるのであろうかと儚い想像に浸りながら時間が来ると、延長はされずにすぐさま席を立つ。ワンテーブルにフリー(指名外)で入った女の子は30分で入れ替わるのだ。気にいってもらえるとえんちょうしてもらえるのだが、なかなかそうもいかない。延長料金が別に発生してしまうのだ。

 

 

そしてラストに着いたお客さんで私の心はぶち破られた。「いい意味で存在自体がイラッとするし、謎の空気を生み出すよね」フランクに言葉をはいてもらったものの、やはり心が強くない人間としてはどう受け答えしていいか分からず黙るばかりで。

一緒にテーブルに着いた先輩キャバ嬢にすべての空気を一掃されて、わたしはイラッとさせないようにとばかり心の中でかんがえるばかりだった。やはりこの仕事は向いていないのでは?と心の中で唱えながら「お金を貯めて死んでやる」と胸の内で呟いて必死に苦笑いを浮かべて。

二の腕にタトゥーを入れたそのキャバクラ譲のタトゥーの筆記体の意味はとても重いものらしく、こちらに話題ふりをして交わす技も。コップの水滴を吹く様やお酒が減るとすぐに作るその様子は、自分にはまだ気が回りきらない心遣いで見ているととても勉強になる。

 

キャバクラを初めて勉強になったことや、プラスのことと言えば、それ当たり前のことだが多くの人々や様々な人種がいて、その人々の話し方や視線や出てくる言葉によって新たに吸収するものがたくさん溢れていることだ。

社長をやっている人、どこかのオーナーさん、先輩後輩、其々の人生や人間関係がそこに折りなされていてとても面白い。

 

そして在籍しているキャバクラ譲。中にはギャルと呼ばれる人々だけではなく、普通の清楚な女の子や、お姉さんから、少し肉付きのいいお世辞にも「かわいい」という単語で表現されない女性が指名をたくさんもらっていたりする。

仕事をしていくうえで、彼女たちのスタイルや色が少しずつ確立されて固定の指名がついてくるのだろう。私はまだ曖昧で、自分のアイデンティティさえ分からずにさまよっている状態なので「分からない」という言葉が心の中を突きつける。

 

 

 

 

帰り際に、金髪ショーカット(仮にAさんとする)とばったり一緒になった。着替える際に私の腕を見るなり彼女は「あ!!!!お揃いだね!!」と元気よく叫んだ。何事かと思い彼女の方を見ると、しばらく昔に傷つけたであろう、肘の裏には痛ましい無数の深い傷の跡が残っていた。「私もこの仕事初めてから切ることが増えて、今切ってるし、ODも何度繰り返したことか。入退院もくりかえしてるんだ」と自分の身の上話をまるで自己紹介をすれでもように馴れた口調で手短に教えてくれた。その為に長袖のドレスを着ているのは自分と同じ理由だったそうで。

昨晩の大きな収入と変化はやはり同じ自傷行為を繰り返している人間として、感慨深いものがあり。初めてリストカットをしている人間同士という意味での肯定を感じた。今まではインターネットでしか同じ境遇(自傷行為をしているという意味で)の人々を毛嫌いしていたが、始めたばかりの仕事の不安からであるのか。彼女のその姿は不思議と憎めずにいれて。

 

それでいても仕事上や、周りの女の子に優しく接するその姿や元気すぎるその笑顔の裏側に隠された真実はとても心が痛むと同時に。隠し通してほしい真実であったkも知れないと思うのは、こちらの勝手でしかない。

彼女はどんな気持ちで「お揃い!」という言葉を発したのだろうか。

 

 

これから仕事なので、この話についてはまた後日深く掘り下げていこうと思う。

今日もお仕事がんばるぞい。

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