コインランドリー

ありふれたような、日常の流れです。

明るく元気にナイスピース

どこかで、わかってる。もう二度と私が特別になれる世界は訪れないこと。

 

ハイライトは残り一本になった。明日から何を支えに生きていけばいい?

唯一の救いとしてお母さんに返してもらった貝印の剃刀は誰にも見つからないようにタンスの中に隠してある。「あなたの腕を見てるといつか私も壊れる」母親のその一言はとても悲痛な叫びだった。そうやって当事者と家族は少しずつ互いの相容れない感情を抱えながら壊れていくのだろうか。

 

一人暮らしをしてしばらくしてから、大きな傷を負った。故意に傷つけられたそれは、治療をしたところで一生消えない傷として深く刻まれた。その帰り道に負傷した左腕を三角巾でぶら下げながら恋人と熱帯魚屋さんへと訪れてベタという魚を購入した。艶やかな蒼に特徴的な尾びれ。魅せつけるように泳ぐその様はとても美しい。友人が自宅へ訪れるたびに、訪れた人々は彼がまるで一人の人格を持つような目で声をかけた。「君は何を考えているの?」ボロボロになった尾びれを一生懸命に動かして狭い瓶の中を起用に泳ぐ。

ふと、目が覚めて濁った水槽の中を覗くとその生き物はすでに息絶えていた。水の上に浮かぶ一匹の魚。「ヒョロリ」となづけられたそれは、今となってはただの魚の死骸でしかない。命を捨て、そこにあった存在さえ無になってしまったかのように名前さえも失われる。彼を失って数日経つだろう。水槽の中にまだその死骸となった魚は存在する。さも生きてるかのように、濁った水槽の中で泳ぐことなく水面でじっとしている。眠っているかのように。

 

インターネットに身を染めることによっていろんな人格が生まれる。他者が見えないその世界は自由だ。嘘を吐くように息をする。他者に自己が吸い込まれるように人格がぶれる。いつの間にかそこで言葉を吐き出しているのは相手が望むべき自己で。自分自身が抱く本来の人格など存在しない。本当の自己とは?といういつになっても抜け出せることのない問題と自問自答する。本当の自分などそこには存在せず、どれも口から出た言葉は嘘であろうと真実でしかない。「嘘」なんて後付けされた都合のいい言い訳だ。私はどこに立って、どこで息をしているのかさえ今はままならない。いったいどこに生きているのだろうか?

 

明るく元気なしおりちゃん