コインランドリー

ありふれたような、日常の流れです。

コンドーム



新しい靴下を履くと心が気持ちがいい。しっかりとしたゴムが足を包み込んで、履き古されていない新しい生地の独特の感触を楽しむ。まるで心も新品に入れ替わったような調子。


朝、目が覚めれば横で寝ている31歳の男はどこか不機嫌そうで、目覚めの一言目は「体調が悪い」
日の光を遮るように布団の中に潜り込んで眠りにつこうとした矢先に一言。
「生姜汁が飲みたい」
「スーパーで買ってこようか?」
「頼んだ」
早々にシャワーを浴びて、体の隅々を丁寧に洗う。入念に歯磨きをする。息を吐くと歯磨き粉のスースーとした感覚が口の中に広がって半分眠りについていた感情を切り替える。一連の動作が、習慣が、1日の始まりをONにするスイッチのように。


駅に到着して、普段使うことのない見慣れない街並みを眺めて心が躍る。物を言う前に、勝手に背中を押されているように足取りが早くなってショッピングモールに吸引されていく。

すっかり自宅で寝込む彼のことを忘れて、様々なものに目を惹かれていたら、気が付くと2〜3時間歩き回ってしまい急いで家路に向かう。


玄関のドアを開けると蒸かしたサツマイモの匂いが立ち込める。珍しく電子レンジの扉が開け放たれ、居間を除くと男が布団の上で美味しそうに焼き芋を頬張っている。
「え?」
全ての感情が落胆していくように驚きを隠せないでいると、
「帰ってくるの遅いから自分で色々買ってきちゃったよ〜」
彼のことを想い買ってきたバニラアイスも、生姜焼き弁当も、何もかも全てが水の泡になってしまったように思い込み、勝手にボロボロと涙が溢れてきた。
両腕にアイスとお弁当のビニールをぶら下げ自転車を漕ぎながら現に浸る脳内で「ありがとう。助かったよ〜」と感謝の言葉を浴びせられる光景を再生していたと思うとあまりにも切なくて抑えられない感情が爆発してしまった。
「どうしてもっと早くそのことを言ってくれなかったの?お弁当も生姜もアイスも全部無駄になっちゃったじゃん!」
苦笑いをする男は宥めようと冗談を交えながらすり寄ってくるも、抑えきれない感情はとどまることを知らず涙は溢れるばかり。
収拾がつかなくなった結果、不機嫌な感情を取り払われないまま自転車の鍵を握りしめて玄関へ逃亡。

がむしゃらに自転車を漕ぎながら、自分は何を考えているんだろうか?と予測不明の涙と感情の乱れに戸惑いながらベローチェ(カフェ)に向かい抹茶オーレとケーキを頼んで一息つく。きっと彼が一番戸惑い困惑したであろうに、自分勝手な言動に心の中で謝罪をした。直接本人に謝れるほど大人にはなりきれず謝罪のメールをそっと送信した。


カフェでガロを熟読しながら、様々なことを考えた。日常に溢れる些細な出来事、小さな不思議。当たり前のように目にする光景さえ、着目すると新しい世界が広がって見えてくる。

日本人は忙しい人が多いから、多忙な生活の中に溢れる小さな疑問や不思議は汚れを拭き取ったトイレットペーパーのように拭き取られて流されてしまう。

意味のない出会いに、自分の物語を添えて、意味を込めて生きてみると、人生は小説や映画を見ているようで少し楽しい。生きることそのものさえ娯楽のよう楽しめる。

カフェに立ち寄った帰り道、何気なくふと普段通らない道を使ってみようと思った。通りの途中のセブンイレブンでピザまんを一つ買って、頬張りながらあたりを歩きて見て回ると、素敵な出会いがありました。

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Happy family Life

くたびれたコンドームの自販機。年季が入り、表示も消えかかってる。購入できるのかさえ不明。500円が吸い込まれて終わる未来を恐れたあまり、購入する勇気は出なかったけど。

日常には些細な出会いが転がっている。目を凝らして歩けば、普段の景色飲み方も少し変わる。こういう場面に出くわした時のために、カメラを持ち歩く習慣をつけようと学びました。