コインランドリー

ありふれたような、日常の流れです。

サバサバしてるけど、愛情はしっかり

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「もう、鍵返して」

その一言から二人の関係は脆くて危ういものになっていたのを本当は気づいてた。日々、見て見ぬ振りをしながら、好きな男の前で従順なふりをして身を焦がしてたよ。

 

少しずつ守ってきたものを自分で壊し続けて、その終着点もわからないまま、気づいたら一人になってた。何かを埋めるように始めた出会い系サイトは、意識が高くておしゃれで、かっこいい男の子ばっかり。

「可愛いですね、かっこいいですね、ぶっ飛んでますね」って代わり映えしない言葉が行き交う中で、空っぽのバケツは溢れることないまま無情な好意を取り込んでた。出会い系サイトの男はみんなジャンクフードみたいに美味しくて、体に悪かったよ。

 

 

毎日、知りもしない人間のカードがたくさん割り振られる。

美大生、ドメブラ大好き大学生、映像系、カメラマン、クリエイティブ系、ストリート系(ラッパー)、美術系、サブカル系、選り取り。

どれだけやりとりを重ねてもワタシは出会い系コンテンツとして消費されて行くばかりで、質の悪いジャンクフードはクドくて美味しくなかった。

 

そのカードの中に、あの人も埋もれてた。何気なく写真を見ては「雰囲気がいい」というそれだけで、アクションを起こした。簡潔に並べられた言葉には、写真を撮ることや真剣な出会いを求めることなどが記されていて、「あっ」と思ったその瞬間は気にも留めなかったよ。

 

それからというもの、その男性からとても丁寧な連絡が届いた。そこに記されていた内容でいま記憶にあるのは「言葉が好き」、ただそれだけだった。

急に興味が湧いて、彼のプロフィールを覗いたそこに書かれていた言葉は「サバサバしてるけど愛情はしっかり」だった。

 

その羅列に一瞬で体の内側にあるものすべてを掻き乱された感覚になって、深呼吸をする暇もないまま、投げられた言葉に対してワタシの一部を投げ返した。

 

彼とはのらりくらりと、やりとりを重ねていた。丁寧な言葉の羅列や心臓を引っ掻き回されるような感性に、少しずつ関心を抱いちゃったね。

出会いかコンテンツに溢れるジャンクフードみたいに辛辣な態度はどうしても避けたくて、怠惰な姿勢が拭われることはなく、その頻度は両手でも足りすぎちゃうほど数えるものばかり。

 

ある時はふと、彼のプロフィールをもう一度眺めていた時に新しい発見をしてしまった。キャップを被って、Tシャツとデニムの何でもないラフな写真。その無骨な腕には、ありとあらゆる何かが描かれていた。

「とても真面目で、正しく、心をかき乱すほど丁寧な言葉を持ってる誠実な男が、すげえ勢いで刺青入れてる?」

 

あの時の驚きは凄まじいものだったよ。出会い系という限られた情報社会の中で、彼を象る物は言葉しかなかったから。人の言葉に対して、こんなにも心臓引き抜かれるほど、息ができないできないくらい魅了をしてくるような男は正しく誠実で、舞踊家のような人間だったのに。

 

忘れもしないよ、思わず彼に「お兄さん実はゴリゴリ刺青入ってるんすね 笑」って言っちゃったこと。

 

単刀直入に言葉を述べるなら、「すげぇ面白いやつかよ」って思ってた。言葉が好きなワタシが、何でもないただの男の吐いた一部に、どんどん掻き乱されて、もう始まってたのかもしれない。本当はずっと

 

それからしばらくして、彼からの連絡を返そう返そうと思いながらも億劫な性格で、返信を怠っていたら、仕事帰りの三鷹駅で確認したそのやりとりに彼のプライベートな連絡先が書かれてた。

 

今度よかったら、ご飯でも行きましょうよ!と言った旨も記されていて心の中で「ラッキー」って思ってた。

 

初めて会った夜は西荻窪の駅。待ち合わせの時間より30分も早く着いた彼はドトールでタバコを吸ってた。ワタシが駅に着くと、お互いなかなか出会えなくて、迷子になったりして。ドキドキしながら駅で待っていたその時、あの人はワタシを見つけた。

緊張でうまく息継ぎができなくて、「青い猫」というお店に案内するまでの道のりさえも覚束なくて。彼は少し困ったように「え?」って笑っていたのも覚えてる。

 

狭い店内に2人、奥の席に敷き詰められて。お酒があまり強くない彼が、どれほど飲めないものか知らなかった。2人でビールを飲んで乾杯。トマト缶で豆を煮たようなお通しを彼は気に入って、「うまいな」って食べてた。ワタシは豆があまり好きじゃないけど、美味しいって言いながら食べる彼を横目に「美味しい」って場の空気に流されながら、口に運んだ。

 

何を喋ったかさえ、よく思い出せない。口を噤んでしまうと彼は「あはは」って笑いながら、「静かになっちゃったよ」って場の空気を和ませてくれた。実際にあった彼の印象は、無骨で寡黙な人というよりもずっと、楽しくて快活で、子供みたいな人だったよ。

ふとカバンの中から、綺麗に包まれたプレゼントを取り出して、渡してくれた。本を読むワタシに向けてブックカバーと素敵な香りがする匂い袋をプレゼントしてくれた。そして彼の読んでいたという本を「貸してあげるよ、読み終わったら絶対に返してね。そしたら次も絶対、会えるでしょう」って言われてドキドキした。

 

それからしばらくほろ酔いでお店を出ると、西荻の駅周辺を練り歩いた。写ルンですで2人の写真を撮ったり、何気無い写真撮られるその瞬間は、なかなか慣れなかった。寒いでしょ?って貸してくれたグレーのパーカーは意識が高い匂いがして最高だったね。

 

しばらく歩くとファマレスが見えて、2人でそこに入った。彼はラーメンのチャーハンセットを食べてるものだから、あまりにもお腹が膨れて、「もう絶対にご飯食べられない」っていってた。

「しおりちゃんって面白い子だね」って、力強い眼差しで私を捉えて離さないから、うまく目を見ることができなかった。

 

続く 

 

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腕をちぎりたい

現在の時刻は午前10時06分。

本来なら中央線の人混みから解放されて、新宿駅の山手線ホームで代々木駅まで向かうところだろうな。不機嫌な顔をぶら下げながら「仕事行きたくねえな」とか、この車内にいる6割の人間が考えてそうなことを唱えて仕事に向かう。「おはようございます」って元気な声でみんなに挨拶するも、どこかで人の顔色伺いながら、ずっと何かに怯えてるんだ。

 

でもワタシが見てる景色は、ゴミ箱から溢れたティッシュと経血がついたシーツ、洗濯しはずなのに涎のシミがついた枕カバーと、冷えた部屋でスープが固形になってるコンビニで買った蕎麦の残飯。本来なら職場に向かう途中で煙草を吸っていたはずなのに、いま自宅の布団にくるまりながらこうして文章を書いてる。どうして平日の昼間にワタシは自宅にいると思う?ずる休みしたんだよ。もっと嫌な言葉を用意するのであれば「仕事をサボった」って字面でもっと自分を強く傷つけることができるよ。

ここ数日間、風邪を引いていたんだ。喉の調子も悪くて、生理も重なってしまい、心も体も万全じゃないからさ、思うように動かない頭と心にイライラしていた。体調不良で仕事を休んでもまったく体も心も全然休めなかったよ。

 

目が冷めた時には携帯の充電が切れていて、時計を見ると電車に乗ってる時間だった。ここで一本会社に電話して、「体調が悪いので少し出勤が遅れます」とでも言えばよかったね。口から出た台詞は「まだ風邪のほうが本調子ではないため、もう1日お休みをいただけると幸いです」なんて、すらすらと口から休むための嘘が出てきたよ。上司も電話越しで「無理しやんでな」って癖の強い関西弁で心配そうな声を出しながら労わる声をかけてくれたよ。本当は誰かに労ってもらえるような人間じゃない。

 

どこかで誰かに「ああ、この人はやっぱりダメだった」っていつもの言葉が頭の中を駆け巡ってる。あんなに頑張ってたけど君はやっぱりだらしないから、こうやって未だに落ちぶれてしまうんだねって、呆れた顔で見られてる気がする。見知った顔がさ、したれ顔で「またインターネットで悲しいアピールをしてるの?そうやってまた腐って行くの?」って言ってるんだ。過去の苦い思い出に心がつっかえて上手く前に進めないのが通用するのは、10代までなんだよ。

人の言葉も視線もすべて怖いね。どうして怖いと思う?自分が諸悪の根源を作り出してるからだよ。どうしたらいいか知ってるはずなんだ。しっかりと前を見て、正しく歩き続ければいいんだよ。もっと必死になって、目の前の物事を掴み取るために歩き続ければいい。ただそれだけで今よりっと状況は良くなる。わかってるはずなのに動けないのは正真正銘のクズで怠け者だからだ。まだ本当の苦しみや、生きることへの必死さを知らないからだ。

 

ああああ、こんなこと言ってクソメンヘラにだけはなりたくねえよ。好きな男ができて、結婚とかそう言う感情をはじめて真剣に意識して、最高に気持ちのいいセックスをしながら二人で「俺ら超最高じゃん」とか言い合って少し苦笑いしつつも、愛してるって言い続けて本当は死にたい。仕事もクソ頑張って、苦手な上司に作り笑いを浮かべながら「辛いのに仕事してるあたしゲロかわいいな」って叫び続けながら生きたい。人並みの人生を送るのは尋常ないくらい難しいけど、好きな男とワタシは幸せになりまたいはずなのに、なんでこんなところで燻ってる?死にてぇじゃなくて殺すって気持ちでずっと生きてきたじゃん。人を恨んだり憎んだりを繰り返しながら、幸福になることが最大の復讐だと思って歩き続けてきたよ。

人並みの幸せを掴み取るのは本当に難しいことなんだよ。みんな当たり前の顔して生きてるけど、その中で努力をしながら歩いてる。好きな男と一緒にいるのでさえ「当たり前」なんて言葉は一生かけても通用しないんだよ。だから絶対に相手へあぐらをかいちゃいけない。自分の人生にも他人にもあぐらを本当はかいちゃいけないのに

 

どんなに踠いても、ワタシは100%の被害者にも加害者にもなれない。大人になると、その振り幅は曖昧になってしまうから、最終的に行き着く場所として楽なのは「自分が全部悪い」で済ませること。歳を取るごとに物事をいい意味でも悪い意味でも物事を省略してしまうことに抵抗がなくなってくる。どれだけ自分を傷つけてもワタシは被害者にはなれないし、どれだけ他人を傷つけても加害者に勇気は用意されて居ない。中途半端で宙ぶらりんな状態で、溺れそうになりながら息継ぎをしなくちゃいけないし前に進まなくちゃいけない。

 

自分の感情がいまどこを向いていて、本当はどこに目を向けたいのかわからない。今一番望んでることは、好きな男とダメなセックスして、腕がちぎれるまでリストカットしたいってことくらいしか頭に思い浮かばない。

 

 

腕がちぎれるほど俺はリストカットしてえ

君たちは傍観者だよ

初めて文章を書き始めたのは、15歳の時だった。その当時、中学生や高校生の中でブログというコンテンツが流行っていたからワタシもそれに便乗してたよ。何を書いていいかわからなくて色々な人のブログを眺めながら、結果的に行き着いたのは化粧パックを顔に貼り付けてる写真が多分はじめての投稿。

 

なんでもない投稿の繰り返しの中で、少しずつ利用方法が変わってきた。子供を降ろして学校を辞めたタイミングだったかもしれない。

人より多くの時間ができて、周りの学生とは少し違う生活を送った。近くにいい先生がいたから二人でいろんな議題を出して、19歳と16歳は狭い六畳一間でセックスしたらお酒を飲みながら、学術書を広げて答えのない持論を繰り広げて。

次第に一人でいる時もいろんなことを考えるようになった。乏しい知識を掻き集めて持論書き連ねるうちに多くの人が目を止めるようになったんだ。あの時の言葉は今のワタシにとってもかげがえなのいものだし、その内容は若者批判や自分の学歴コンプレックスからくる嫉妬ばかりが渦巻いた屁理屈だったけど。

考えることが楽しいに変わった時、「悲しい、嫌だ」という感情も言葉にするようになった。言葉にして整理して、綺麗な終着点を見つけられると心が軽くなったから。そのうち、ただの叫び声みたいな文章もたくさん書くようになったよね。この時点でもう、言葉にする習慣がついてしまったんだ。

 

少しずつ見てくれる人も増えて、「あなたの文章が好き」と言ってくれる人が現れるようになった。多くの人に評価されることはないけど、何気ない世界の中で出会った人に「文章を書くのが上手いね」と褒められた。

 

そのうち「小説を書こう、物書きを目指そう、作品の文章を作ってくれ、ワタシのために言葉を書いて」と誰かのためにといった要素が迷いこむことが増えた。

でも、それはどれもうまくいかなかったよ。相手の感性を形にすることはできない。ワタシの文章は全部、ワタシという人間の事実を羅列しただけのものだ。誰かの心に秘めた事実を表現することはできない。そもそも、誰かが望んでいるもの「需要」という答えの上に晒されては、不埒な言葉の羅列ばかりだよ。

 

別にお金をもらってるわけじゃないよ。個人的に書いてる文章なんて、自己陶酔。だから本当はもっと誰がどうじゃなくて、素直に言い散らかして逃げればいい。「すごいね、いいですね、お上手ですね、いい文章を書くね」って誰かに評価されるのは嬉しいけど、素直にありがとうが出てこなくて。「買い被るなよ」って暴力だ立ち向かっちゃうところがある。

 

ワタシは人とうまく喋ることができないから、いつも言葉を閉じ込めてる。でも文章は周りの人々に伝われど、傍観者でしかない安心感があるから、この歳になっても書き続けるんだろうな。本当はワタシの人生に参加して欲しいはずなのに責任を負えない。だから傍観者の中でひたすら、押し殺してきた言葉を出してる。